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- 僕が医者を辞めない理由
商品情報
内容
序文
はじめに
私は一応医者ですが、無位、無名、無官、無才、無学、無産、無益な人間に過ぎません。首都圏の郊外の小さな場末の民間病院で細々と「民間療法」を行い、食いつないでいる有り様です。いい加減な医者ですし、見方によれば、無慈悲な人間であるかも知れません。とんでもないやつです。きっと他の医者と名の付く職業の人は、もっとましだろうと想像します。
私はデタラメな医者として、よい時代をすいすい生きてこられたように思います。まぐれで地方医学部に入学し、どさくさにまぎれて卒業し、医師国家試験にも簡単に合格しました。医師国家試験は、こんなに簡単ならばあれほど勉強するんじゃなかった、と後悔したぐらいです。私の同級生も皆同じような感想を漏らしていました。普通の感性の人ならば、「こんな誰でも合格するような試験に受かっただけで生意気に医者になれるなんて、世の中どうかしている」と思っているはずです。
卒業して、大学病院の医局という集団に入れてもらいました。医者は卒業した後、専門とする科目はいつでも何でも好きなものを選べるという、めちゃくちゃな制度です。そこでとりあえず、一番かっこいい心臓外科を選びました。自分で選ぶのは自由だし、選ばれる側に拒否する気持ちはなかったようですから。ところが大学病院の研修とは名ばかりで、検査の結果を検査室に聞きに行ったり、教授のVIP患者について病院中を案内したり、伝票をカルテにのりで貼り付けたりのつまらない雑用ばかり。単なる安い労働力として病院にいさせてもらっているだけ、というのが研修内容だったように思います。外見上は大学病院の研修医ということでしたが、アルバイトの病院で学んだことの方が一〇〇倍はありました。このままでは一生、人間である他人様に医療行為などできない、偽ニセ医者で終わってしまう、ましてや心臓の手術を他人様に行うことなどできるはずはない。ただのこま使いで人生が終わってしまう。そう思って自分で計画を立てて修行しようと思ったのです。
大学病院から離れてごっつい病院で研修を受けましたが、そこでもあまり代わり映えはしません。心臓手術は儀式のよう、つまり偉いセンセイが自分がいかに偉いかを周囲に鼓舞する儀式として、心臓外科手術というのがあるような印象を私は受けました。「なんじゃこりゃー!」と実情を知れば知るほど誰もが驚く現実ではなかったでしょうか。自分の無能さに対する自覚も手伝い、将来については暗澹たる気持ちで満たされていた二〇代でした。
それに私の周囲には、どう考えても不幸せそうな先輩や上司ばかりで、将来そんな人のようには絶対になりたくない。そんな多数の反面教師に囲まれていました。「この国の心臓外科医とは、全般にかくも不幸せなものだろうか」と感慨深く思ったものです。こんな話は歴史の話、と私も昔話のつもりで書いていましたが、二章でも述べるように、二一世紀になっても大学病院の医師たちの悲惨な状況は変わっていないようです。
話は私の話に戻りますが、先輩や指導医には恵まれませんでしたが、同世代のライバルには恵まれたと思います。彼らを知ることで未来が見えました。そして自分も見えてきたのです。
何とかして楽に格好よく生活できるいい方法はないか?というのが私の人生哲学ですが、オーストラリアなどに行って「門前の小僧」をやらせていただき、いつの間にか心臓の手術だけはできるようになったようです。いやできるフリをする能力が備わったというべきかもしれません。
心臓手術はリスクのある手術で誰でもできるものではありません。また、誰でもできるようになる必要もないものです。希少価値、ということで、心臓手術ができるようになれば、今でいうAO入試(アドミッション・オフィス入試)のように、一芸に秀でているということで、世間様からご評価いただけるようにもなったと思います。
そんな私は正直申し上げて名医でもなんでもない、ネコ好きのヘンなおじさんでしかないように思います。ただのおじさん、いやとびきりいい加減なおじさんが、若い世代の皆さんに参考になるような話ができるかどうか自信はありませんが、逆に読者諸兄姉には、「なんだ、こんなにいい加減でも昔はやっていけたのか。まあこれからの社会ではダメだろうけど、まだある程度いい加減な部分は残っているかもしれない。いいことを聞いた」とご参考にしていただける部分も少しはあると思うのですが、いかがなものでしょう。
目次
はじめに
第一章 探せ! ブラック・ジャック的おじさん
「憧れ」を見つけよう!
私にとってのオーラが出ていた憧れのおじさん
バカにできない三つのことわざ
第二章 奇々怪々!? 医者の世界
でたらめが許される今までの良き時代
オーストラリアに侵入
蹴落とされたライバル
当たり前の心臓外科医が褒め称えられる異常な環境!
医者という人種の本質
医者に騙される医者
大学教授ってエライの?
給料は少ない分、そのかわり...
謝礼 ~出世とは税金のかからない収入が多い立場?
医者のセクハラ
この世の中、みんな弱いものいじめが大好きです
医者って特別?
第三章 プロってなあに?
一、プロは仕事が大好き!
二、プロはトラウマを乗り越えない~生傷はいつもうづいている
三、プロは待遇にうるさい
四、プロは臆病
五、プロは手を抜かない
六、プロは現場の人
七、プロは限りある時間を知る
八、プロはライバルを持つ
第四章 医者の腕の磨き方、教えます
上達論ですいすい技術を習得
努力とは言い訳の言葉
上達論に「感情」は大敵です
裁判で問われた手術技能の客観性
上達論の基本
第一段階:観察して分析
第二段階:分割して表象化! が第一歩
第三段階:模倣
第四段階:批評 ~比べる力
スポーツ至上主義
勝利の美酒に魅了され、反復を求める人生
第五章 医療界文化人類学
服従と脅しのテクニック
サル山の心理学 ~女性の力とコミュニケーションの力
一、新参ものは年長女性にまず取り入るべき~女性看護師長との関係は死活問題!
二、コミュニケーション力
第六章 僕が医者を辞めない理由
全き行い
患者の人生をリングサイドで垣間見る
ある医学生からのメール
医者になった動機
僕が医者を続ける理由
手術は免罪符
あとがき 僕が本書を出す理由
付録 ディベートの極致 孔明の舌戦!
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書籍情報
- ISBN:9784897066974
- ページ数:237頁
- 書籍発行日:2005年5月
- 電子版発売日:2013年1月1日
- 判:四六判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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