はじめに

みなさんが今まで生きてきて一番大きかった怪我はなんですか？

私は大学2年生のとき，サッカー部で「初めて公式戦出場！」という試合のアップ中に足関節を捻ってしまったときです。歩くことができないくらい足が腫れ上がり，先輩におぶってもらい病院に行きましたが，骨折はなく捻挫の診断でした。なんともカッコ悪いタイミングでの怪我でしたが，生まれて初めてシーネと松葉杖を使い，骨は折れていなかったものの「全治三カ月」。これが私の今までで一番大きかった怪我です。その時にかかったのが整形外科でこれを機に整形外科医に…という美談はありませんが，大学で六年間部活をやっていたので，整形外科にはたくさんお世話になりました。

皆さんもこれまでスポーツで怪我をしたことや，普通に生活していても机の角に足趾をぶつけたりなど，痛い思いをしたことがあるかと思います。これまで一度や二度は整形外科の外来にかかったことがあるのではないでしょうか。

怪我はどうしても日常生活につきもので，時間外の外来にも怪我をした患者さんの受診が多くみられます。大学病院など大きな病院で各科の先生が当直しているという病院であれば，整形外科医に任せてしまえばいいかもしれません。しかし，日本の医療のシステム上，外科当直をしている整形外科医以外の医師が，専門外である整形外傷の患者さんを診ないといけないということも多いのではないでしょうか。

怪我をして救急外来にかかっているので，どうしても処置が必要になる患者さんもいます。そうした時に「整形外科の先生に連絡するのもなぁ…」，かといって「どうやってシーネやギプスを使えばいいのか，よくわからない…」という外科当直をしている研修医や整形外科以外の医師，「整形外科の処置って独特で良く分かんないんだよね…」という看護師も多いのではないかと思い，本書の依頼を受けることと致しました。

本書は，専門外や整形外科を始めたばかりの医師が日常生活にありふれている外傷の患者さんを診る時に，診断とその後の処置を的確に済ませ，後日の整形外科の外来にバトンをサッと渡せることを目標に，各部位を専門としている整形外科医と一緒に書かせていただきました。整形外科でしか扱わないシーネやギプスの初期対応の仕方を中心にした内容ですので，なるべく写真を多くして動画も入れました。また，次の外来までの説明の仕方なども記載し，外傷の初期対応をなるべくスムーズにできるように意識しました。

本書が外科当直をしている整形外科以外の先生，整形外科を始めたばかりの先生，またそれをサポートする看護師の方々にとって，整形外傷の患者さんを診るときの一助になることを祈っております。

2020年10月

虎の門病院整形外科 医長・脊椎センター センター長 福島成欣