編集にあたって

半月板は，膝関節の大腿骨と脛骨の間に存在する三日月型の線維軟骨組織です。古くは単なる関節内の遺残構造物であり，何の機能もないものと考えられていました。しかし半月板は，膝の運動に伴いダイナミックに関節内を移動しながら荷重の伝達や分散を行い，軟骨への栄養・潤滑，さらには関節安定性を高めることにより，膝関節の恒常性と機能の向上性に大きく寄与しています。血流に乏しい半月板は治癒困難と考えられ，過去には関節切開下に切除術が行われ，その後，関節鏡の普及とともに鏡視下切除術が第一選択となりました。しかし，たとえ部分切除であっても半月板機能が失われるために，将来的に二次性変形性膝関節症の原因となります。このため近年，本特集号のサブタイトルでもある“Savethe Meniscus”のスローガンの下，半月板修復術に治療は大きくシフトしています。しかしすべての損傷半月板を修復することは困難であり，いまだ多くの切除術が行われていることも事実です。

本邦に多い外側円板状半月板は，小児期から成長期の半月板損傷の主因であり，損傷が放置されたり不適切な治療が行われたりすると，離断性骨軟骨炎や若年性変形性膝関節症へと進展します。アスリートに対する外側半月板切除術は急速な関節軟骨融解の一因となり，選手生命を奪うだけではなく，高度の関節変形に至ることも稀ではありません。前十字靱帯損傷に合併する半月板損傷は，治癒しなければ変形性関節症の原因となり，術後の不安定性にも関与します。Commondisease である変形性膝関節症の発症に，半月板逸脱が関与していることも明らかとなってきましたし，中・高齢者に生じる内側半月板後根断裂は大腿骨内顆骨壊死の誘因ともなります。

現在，損傷半月板は可能な限り温存・修復し，その機能を維持する試みがなされています。そのためには様々なタイプの半月板損傷を正しく診断し，早期に治療を開始しなければなりません。その治療にあたっては，半月板の詳細な解剖や生体力学的機能を理解することが重要です。最近は様々な手術器械が開発され，これまで縫合困難な部位や損傷も修復可能となっています。さらに半月板切除例や修復不能例に対しては再生医療なども応用されています。本特集号では，半月板の基礎から損傷半月板の診断と治療，そして最先端の治療法まで俯瞰できる内容になっております。少しでも多くの先生方にご一読いただき，明日からの診療にお役立ていただくことを期待しております。

2020年4月

弘前大学整形外科
石橋　恭之