医学のあゆみ279巻10号 ワクチン設計のサイエンス

  • ページ数 : 120頁
  • 書籍発行日 : 2021年12月
  • 電子版発売日 : 2021年12月1日
2,860
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商品情報

内容

企画:石井 健〔東京大学医科学研究所感染・免疫部門ワクチン科学分野,同国際ワクチンデザインセンター(国際粘膜ワクチン開発研究センター),国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバント研究センターモックアップワクチンプロジェクト〕

・2018年に発刊した「近未来のワクチン」(264巻5号)という特集からコロナ禍を経て,基礎研究から開発研究にかけて各方面から多くのシーズやイノベーティブなプラットフォームなどの発見,発明が生まれている.
・今回は,日本でも活性化されたワクチン開発の新展開,とくにワクチン設計のサイエンスともいえる内容を各領域で活躍されている先生に執筆をお願いした.
・本特集の報告が,次に何が来るかわからない感染症への備えの基盤となり,そしてその内容が若い研究者の好奇心をくすぐり,次なる破壊的イノベーションを引き起こしてくれる日が日本に来ることを切に期待する.

あわせて読む → 医学のあゆみ264巻5号 近未来のワクチン-開発研究の潮流と課題

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序文

はじめに


今般コロナ禍において新型コロナウイルスに感染され亡くなられた方,ご家族に心よりお悔やみ申し上げます.また,新型コロナウイルス感染症における医療,研究,対策にあたって下さっている関係者の皆様に心より感謝申し上げます.

2020年初頭より発生した新型コロナウイルスによるパンデミックは世界を一変させ,診断,治療,ワクチンの開発研究,審査行政,接種事業で起きた革命的変化はもちろん,社会全体の医療,政治,経済の混乱,変革は全世界の国民を巻き込んだ一大現象となった.感染者は数億人,死者も500万人を超えてもなお混乱は収まっているとはいえない.日本でも例外ではなく,感染が拡大している最中に首都東京でオリンピックを開催するという未曽有の状況は,日本をいまだかつてない混乱,危機に陥れた.当然のごとく,日本の科学界,医学界,製薬業界,行政に関わる面々はその渦中におり,新しい研究成果や国をあげた開発,接種事業,多くの医療業界が対応にあたり,関連学会なども見解の表明など発信,対応を行っているが,残念ながら,海外,欧米中など比較すると国内外で「ワクチン敗戦」「Vaccine Yattafuri」と揶揄されてしまったことを真摯に受け止める必要があると考えている.

このような状況において,今回「医学のあゆみ」から2018年に発刊された「近未来のワクチン」(264巻5号)という特集から約3年が経った.その間コロナ禍を経て,日本のワクチン開発研究がワクチン敗戦と揶揄された状況を真摯に反省しつつも,実際のところ,基礎研究から開発研究にかけて各方面から多くのシーズやイノベーティブなプラットフォームなどの発見,発明が生まれている.今回は,日本でも活性化されたワクチン開発の新展開,とくにワクチン設計のサイエンスともいえる内容を紹介すべく,各領域で活躍されている先生に執筆をお願いした.

まず,現在進行形にてすすむ新型コロナウイルスのパンデミックを収束させるワクチンの開発研究を,その背景から最新の経緯と課題を林智哉氏(東京大学医科学研究所)に,とくにコロナ禍で注目を浴びたDNAワクチンでは中神啓徳氏(大阪大学最先端医療医イノベーションセンター)に,mRNAワクチンに関しては,新規創薬・ワクチンモダリティとしてのmRNAにて位髙啓史氏(東京医科歯科大学生体材料工学研究所)に,mRNAワクチンのDDSとして,pH感受性脂質に関して秋田英万氏(千葉大学大学院薬学研究院)にわかりやすく,かつ詳細に解説いただいた.

加えて,コロナ禍での免疫学研究の成果として,自然免疫アジュバントを用いた新規粘膜ワクチン開発を藤本康介氏,植松智氏(大阪市立大学大学院),そして,COVID-19からみえた獲得免疫記憶の特性を高橋宜聖氏(国立感染症研究所治療薬・ワクチン開発研究センター)に,粘膜面における獲得免疫と感染防御を細見晃司氏,國澤純氏(医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバント研究センター)に執筆していただいた.渡辺登喜子氏(大阪大学微生物病研究所)には弱毒生ワクチンと不活化ワクチンの開発研究を,SARSCoV-2特異的T細胞クロノタイプとエピトープ解析に関して石塚茂宜氏,長江雅倫氏,山﨑晶氏(大阪大学微生物病研究所分子免疫制御分野)に,SARS-CoV-2 Spike L452R変異は,細胞性免疫の逃避と感染性上昇に関しては山岨大智氏,佐藤佳氏(東京大学医科学研究所)に最新の成果を解説いただいている.またアジュバントによるin situワクチン,感染症予防,非感染性疾患への応用に関して小檜山康司氏(東京大学医科学研究所)が,機械学習によって加速される次世代アジュバント開発を夏目やよい氏(医薬基盤・健康・栄養研究所AI健康・医薬研究センター)が概説する.さらには,ワクチン,アジュバント研究として最も重要な安全性研究の新展開を佐々木永太氏(国立感染症研究所血液・安全性研究部)らに,今後の鍵を握るともいわれる有機合成化学研究からのワクチン,アジュバント設計に関する知見を井貫晋輔氏(京都大学大学院),藤本ゆかり氏(慶應義塾大学理工学部化学科)にお願いした.

現在進行形のワクチンから,今後のウイルス学はもちろん,ワクチン免疫学,とくに免疫記憶や粘膜免疫,アジュバントといった以前から知られたキーワードから有機化学合成,機械学習,深層学習,AI解析,そして1細胞解析,網羅的遺伝子発現解析による安全性研究といった新たなキーワードが組み合わさり,どのようなワクチンが近い将来でてくるのか,想像していただけると思われる.

コロナ禍で起きたワクチン開発研究の破壊的イノベーションはどこへいくのだろうか? 日本では感染症研究やワクチン開発が米英に比較し弱い,遅いと揶揄されていたが,決してそうではなく,ウイルス学,免疫学の基礎研究者達が切磋琢磨し,多種多様なベクター研究を繰り広げている.

今回のコロナ禍で成功したワクチンが次に成功する確証はないため,次に来る感染症に対するワクチンベクターとして高いポテンシャルを持つベクターの先端的な研究をされている先生方に執筆をお願いした.

今回のコロナ禍でも活躍したアデノウイルスベクターワクチン設計のサイエンスを水口裕之氏(大阪大学大学院薬学研究科)に,ヘルペスウイルスベクターに関して小栁直人氏,川口寧氏(東京大学医科学研究所)に,麻疹ウイルスベクターは田原舞乃氏,竹田誠氏(国立感染症研究所ウイルス第三部)に,センダイウイルスベクターを草野好司氏(IDファーマGMP/CPCセンター)らに,水痘ウイルスベクターを有井潤氏,森康子氏(神戸大学大学院医学研究科)に,ワクシニアウイルスベクターを安井文彦氏(東京都医学総合研究所感染制御プロジェクト),ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスベクターを内海大知氏,保富康宏氏(医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センター)に,コロナ禍では別の意味でも注目を浴びたBCGベクターに関して竹石惇樹氏,長田秀和氏,松本壮吉氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科)に,そして,バクテリオファージをベクターとするワクチンを橋口周平氏(鹿児島大学工学部)に概説いただいた.

現在ワクチンの接種率は数カ月で7割を超え,国産ワクチン開発も進み,出口が見えつつある.感染者数も激減し,3回目接種であるとか,国のワクチン開発戦略といった近未来への展望の議論も始まった.一方,世界に目を向ければ,発展途上国ではワクチン接種がほとんど進んでいない国も多くある現実があり,日本はUniversal Health Coverageに貢献することが期待されている.さらにはG7では,コロナ禍で300日ほどで開発されたワクチン開発期間を,さらに100日に短縮する「100 Days Mission to Respond to FuturePandemic Threats」というチャレンジングな目標が掲げられた.

上記にご紹介させていただいた先生方からの報告が,100 Days Missionのようなチャレンジングな将来の目標を見据え,次に何が来るかわからない感染症への備えの基盤となり,そしてその内容が若い研究者の好奇心をくすぐり,次なる破壊的イノベーションを引き起こしてくれる日が日本に来ることを切に期待しつつ,「はじめに」のごあいさつとさせていただく.


石井 健

東京大学医科学研究所感染・免疫部門ワクチン科学分野,同国際ワクチンデザインセンター(国際粘膜ワクチン開発研究センターから改組予定),国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバント研究センターモックアップワクチンプロジェクト

目次

総論

新型コロナウイルスのパンデミック収束のためのワクチンサイエンス  林 智哉・石井 健

自然免疫アジュバントを用いた新規粘膜ワクチン開発  藤本康介・植松 智

COVID-19からみえた獲得免疫記憶の特性  高橋宜聖

粘膜面における獲得免疫と感染防御  細見晃司・國澤 純

弱毒生ワクチンと不活化ワクチン  渡辺登喜子

SARS-CoV-2特異的T細胞クロノタイプとエピトープ解析  石塚茂宜・他

アジュバント─in situワクチン,感染症予防,非感染性疾患への応用  小檜山康司・石井 健

機械学習によって加速される次世代アジュバント開発  夏目やよい

SARS-CoV-2 Spike L452R変異は,細胞性免疫の逃避と感染性上昇に寄与する  山岨大智・佐藤 佳

安全性研究からのワクチン・アジュバント設計  佐々木永太・他

有機合成化学研究からのワクチン,アジュバント設計─ ワクチンアジュバント開発における有機合成化学の貢献と新たな取り組み  井貫晋輔・藤本ゆかり

各論

【Non-viral vector】

プラスミドDNAベクターワクチン設計のサイエンス  中神啓徳

新規創薬・ワクチンモダリティとしてのmRNA  位髙啓史

RNA創薬を支える縁の下の力持ち─pH感受性脂質  秋田英万

【Viral vector】

アデノウイルスベクターワクチン設計のサイエンス─COVID-19に対するワクチン開発を中心に  水口裕之

ヘルペスウイルスベクターワクチン設計のサイエンス  小栁直人・川口 寧

麻疹ウイルスベクターワクチン  田原舞乃・竹田 誠

センダイウイルスベクターワクチン設計のサイエンス  草野好司・他

組換え多価ワクチンベクターとしての水痘生ワクチンの可能性  有井 潤・森 康子

ワクシニアウイルスベクターワクチンの設計  安井文彦

ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスを用いた結核ワクチンの開発  内海大知・保富康宏

【Bacterial vector】

BCGベクターワクチン設計のサイエンス  竹石惇樹・他

【Phage vector】

細菌に感染するバクテリオファージを担体とするファージワクチン設計  橋口周平

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書籍情報

  • ISBN:9784006027910
  • ページ数:120頁
  • 書籍発行日:2021年12月
  • 電子版発売日:2021年12月1日
  • 判:B5判
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