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別冊「医学のあゆみ」 近未来のワクチン―開発研究の潮流と課題

  • ページ数 : 152頁
  • 書籍発行日 : 2018年12月
  • 電子版発売日 : 2019年4月3日
4,840
(税込)
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商品情報

内容

教科書やガイドラインにはまだ載っていない“近未来のワクチン”がわかる一冊!

●現在、日本においては20以上ものワクチンがvaccine preventable diseases(VPD)に対する予防接種として活躍している.ワクチンによって得られた医療上の、また経済的なベネフィットは計り知れず、ワクチンが“歴史上最大、最高の医学的発明”といわれる所以であろう. ●本特集では、医学の“温故知新”ともいえる医療技術である“ワクチン”、それも教科書やガイドラインにはまだ載っていない“近未来のワクチン”に焦点を当て、専門の先生方に概説いただく.

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序文

はじめに

明治維新から150年を数える2018年,翌年には元号が変わり,翌々年には東京オリンピックが開催される.世界のなかの日本において,普段の生活において,われわれの近未来はどのような世界になっているのであろうか? 戦争や災害はさておき,医学の分野では,地球温暖化,グローバル化に加え少子高齢化も相まって,新興再興感染症や多剤耐性病原体(AMR)の出現だけでなく,認知症やがん,アレルギー,希少疾患を含む難病など,治療(根治)が困難であるという問題だけでなく,医療経済の観点からみて,発症,病態の予測,予防が有効であろう疾患が増加してきている.これらの疾患に対し多くの医療対策や政策,そして医薬品開発が進んでいるが,本特集では,"温故知新"ともいえる医療技術である"ワクチン",それも教科書やガイドラインにはまだ載っていない"近未来のワクチン"に焦点を当ててみたい.

ワクチンの開発研究の歴史はずいぶんと古いのだが,いまだに進化,深化し続けている.とくに近年進歩の速度は加速度を増している.ワクチンの主たるコンセプトである,"一度感染すると同じ病気には二度かからない『二度なし』の現象"は古代ローマ時代から知られていた.その時点から計算すると,牛に感染する牛痘をヒトに接種することでヒト天然痘に対する感染防御が可能であることを実験的に証明したE. Jennerの種痘ワクチンの発明まで,約20世紀かかったことになる.その後,種痘ワクチンは世界に普及し,日本では明治維新の少し前,1849年にその種痘の痘苗がオランダから長崎に導入されたことからはじまったといわれる.以後日本全国に種痘が普及してから1世紀半たった現在,天然痘は根絶され,この30年ほどで多くの感染症に対するワクチンが開発された.日本においては最近のワクチンギャップといわれるような紆余曲折はあったものの,2018年には約20種近いワクチンがvaccine preventable diseases(VPD)に対する予防接種として活躍している.これらのワクチンによって得られた医療上の,また経済的なベネフィットは計り知れず,ワクチンが"歴史上最大,最高の医学的発明"といわれる所以であろう.

ワクチンという発明は,後に多くの学問を生んだ.ワクチンの病原体を扱う微生物学,ワクチンの作用機序,つまり宿主免疫応答の二度なしの原理を追及する免疫学が生まれ,その後,生化学,分子生物学などにも間接的に影響を及ぼしているといえる.その主要な成果,たとえば細菌毒素の不活化,抗体の発見,鶏卵,細胞でのウイルス大量生産,抗原特異的免疫反応や自然免疫のメカニズムなどは,すべてノーベル賞の受賞につながったことも周知の事実である.

では,これからの近未来のワクチンはどうなるのか? この問いに答えるべく,本特集の内容が吟味された.まずは総論として,過去,現在から2018年以降近未来のワクチン開発研究の現状と課題を石井が概説し,同様に感染症ワクチンのアンメットメディカルニーズは何かを国立感染症研究所の神谷 元氏にお願いした.

ワクチンのコンセプトにもパラダイムシフトが訪れてきている.抗体医薬は現在の医療において多くの疾患における有効な生物製剤として確固たる地位を確立しつつあるが,その開発製造におけるコストが医療費に重くのしかかっていることも事実である.そのなかで,生体内で抗体という"生物製剤"を産生させることにもっとも長けたのがワクチンであり,コストや有効性,安全性の面であらたに脚光を浴びつつある.今回,抗体医薬の代替としての新規ワクチン技術の潮流に関して鍔田武志氏に執筆をお願いした.また,ワクチンの抗原探索技術もがんなどを筆頭にゲノム医療や個の医療の技術革新を追い風に,近年とくに進化のみられる領域であり,がんワクチン抗原技術の最近の動向を中心に大平公亮氏・垣見和宏氏に執筆をお願いした.同様のコンセプトで高血圧や糖尿病,動脈硬化などの生活習慣病に対するワクチン開発が盛んになっているが,その現状と課題を中神啓徳氏にお願いした.

ワクチンそのものの技術と平行して,投与ルートのあらたな開発研究も進み,粘膜免疫をターゲットとしたワクチン開発が盛んである.臨床試験に入り,あらたなステージに向かっているコメ型経口ワクチンに関して西村 潤氏らに,経鼻インフルエンザワクチンを中心に長谷川秀樹氏,経鼻結核ワクチンの開発研究を中心に辻村祐佑氏・保富康宏氏にグローバルな開発の現状も踏まえて概説していただく.自然免疫研究を軸にした粘膜アジュバントの開発研究を藤本康介氏・植松 智氏に,そして昨今メディア的にも注目を浴びている腸内細菌や栄養,サプリメントなどによる免疫制御を利用したあらたなワクチン開発を長竹貴広氏・國澤 純氏に執筆をお願いした.

さて,アンメットメディカルニーズや緊急性の高い感染症などの疾患や,現在開発が進んでいて,近い将来臨床応用される可能性のあるあらたなワクチン,近未来のワクチンについて,エマージングウイルスに対するワクチン開発を今井正樹氏ら,安全性の高い水痘ウイルスベクターを用いたワクチン開発に関して西村光広氏・森 康子氏,あらたなノロウイルスワクチンの開発の潮流と課題を片山和彦氏に,また,グローバルな医学的困難,危機に瀕している多剤耐性菌に対するワクチン開発を内藤慶史氏・佐和貞治氏に,結核とならびに三大感染症にもかかわらず,いまだに有効なワクチンが存在しないマラリアワクチンと,HIV ワクチンの開発研究の潮流と課題を,それぞれ堀井俊宏氏,俣野哲朗氏にお願いした.

近未来のワクチンの紹介に加え,今回はワクチンの安全性に関するあらたな研究の潮流と副作用(ワクチン行政では副反応という言葉を使用しているが)に関する最近のゲノム科学的,生物学的,統計学アプローチを用いた研究成果をそれぞれ,濵口 功氏ら,押海裕之氏,多屋馨子氏にお願いした.

なぜ,いまワクチンの安全性研究が重要なのか? ワクチンが"歴史上最大,最高の医学的発明"と前述したものの,普段,ワクチンで予防できている疾患の負担に対し感謝の念をたえず思い出すことがあるだろうか? 残念ながら,平時のわれわれにはワクチンによっていろいろな感染症にかかる"リスク"がなくなる,減っているという"ありがたさ=ベネフィット"が実感できることはほとんどといってないだろう.逆にワクチン接種後に起きる有害事象(英語ではadverse eventなので,とてもいい日本語訳とはいえず,逆に多くの誤解を生じさせている)という"リスク"のみが抽出され,メディアや一部の医療関係者で議論されているのは心苦しい限りである.このような場合,多くが科学から論点が外れていき,行政の対策不足や失態,製薬企業への不満,不信などがメディアで議論されている.こうなると残念ながらサイエンスからのアプローチは,最新の統計学や免疫学をもってしても厳しいだろう.しかし,実際に副作用(副反応,有害事象を含む)に苦しむ患者がいるかぎり,この原因究明と医学的,経済的,社会的救済を真摯に続ける義務をわれわれは負っていることも肝に銘じて,近未来のワクチンを医学の貢献に生かしていければ幸いである.本特集が今後の予防医学におけるワクチンの科学的,臨床的意義の高まりと共鳴し,近未来のワクチン開発研究のポテンシャルの高さ,広がりが読後感となっていただければ幸いである.

東京大学医科学研究所,医薬基盤・健康・栄養研究所 ワクチン・アジュバント研究センター
石井 健

目次

はじめに

総論

1.近未来ワクチン:開発研究の新展開

・現状のワクチンと課題

・近未来ワクチンの3つの必須要素

・近未来ワクチン:安全性研究

・近未来ワクチンの開発研究動向

2.わが国の感染症ワクチンにおける"真の"ワクチンギャップの解消とアンメットメディカルニーズ

・"真"のワクチンギャップ解消とは?

・感染症ワクチンのアンメットメディカルニーズ

・まとめ

ワクチン技術とサイエンスの新潮流

3.抗体医薬の代替としての治療ワクチン

・抗体医薬に代わる治療ワクチンの原理

・治療ワクチンの効果

・標的分子由来ペプチド/異種蛋白質複合体を用いた治療ワクチン

・抗体医薬に代わる治療ワクチンの利点と課題

4.がん抗原探索技術の基礎と臨床―次世代シーケンサーを活用したがん抗原の同定

・がん抗原とは

・体細胞遺伝子変異由来抗原であるneoantigen

・従来のがん抗原探索方法

・次世代シーケンサーを活用したMHC結合ペプチドの解析方法

・質量分析法(MS)を活用したMHC結合ペプチドの解析方法

・臨床試験

5.ワクチンアジュバントと粘膜ワクチンの基盤となる自然免疫細胞解析

・ワクチンアジュバント

・粘膜ワクチンと腸管自然免疫細胞

6.免疫・ワクチン応答を左右する腸内環境因子としての栄養と腸内細菌

・ビタミンの多彩な免疫制御作用

・脂質の量と質の違いによる免疫制御作用

・腸内細菌とその代謝物による免疫制御作用

7.粘膜ワクチンの潮流と課題

・粘膜ワクチンの特徴

・粘膜免疫の誘導メカニズム

・粘膜ワクチンの現状と課題

・粘膜免疫システムを応用した新規ワクチン開発のための取組み

8.エボラ出血熱に対するワクチン開発の進展

・エボラ出血熱の病原体

・西アフリカでのアウトブレイクとベクターワクチンの臨床試験

・不活化エボラΔVP30ウイルスワクチンの開発

・次世代ワクチンとして注目されているエボラRNAワクチンの開発

9.ウイルスベクターを用いたワクチン開発

・ウイルスベクターによるワクチン開発の概要

・アデノウイルスベクター

・ワクシニアウイルスベクター

・水痘帯状疱疹ウイルスベクター

・黄熱ウイルスベクター

・麻疹ウイルスベクター

・センダイウイルスベクター

・水疱性口炎ウイルスベクター

各種ワクチン開発の潮流と課題

10.ノロウイルスワクチン開発

・ノロウイルスとは

・ワクチン開発のための研究手法の進展

・開発中のノロウイルスワクチン

11.新しいインフルエンザワクチン開発

・インフルエンザウイルス感染防御におけるIgG抗体と分泌型IgA抗体

・弱毒生インフルエンザワクチン

・経鼻不活化インフルエンザワクチン

・インフルエンザワクチンの新しい有効性評価法の必要性

12.多剤耐性緑膿菌に対する免疫療法―緑膿菌V抗原ワクチンの開発

・多剤耐性緑膿菌(MDRP)とは

・緑膿菌に対するワクチン療法の歴史

・III型分泌システム

・III型分泌装置とV抗原

・緑膿菌III型分泌に対する免疫療法

13.粘膜免疫誘導型の結核ワクチン開発―ワクチンベクターとしてのヒトパラインフルエンザ2型ウイルスの可能性

・結核ワクチンのグローバルな研究・開発の動向

・結核ワクチン開発に向けた課題

・結核ワクチン抗原の発見

・これまでに得られた結核感染にかかわる知見

・宿主の免疫制御下にあっても結核菌は感染・再感染を繰り返す

・新規結核ワクチンベクター候補,HPIV2

14.グローバルに開発が進むNPC-SE36マラリアワクチン―BK-SE36マラリアワクチンの臨床開発

・SE36マラリアワクチンの開発経緯

・これまでに実施されたSE36マラリアワクチンの臨床試験

・SE36マラリアワクチン効果に関する知見

・2018年に予定している臨床試験

・薬事承認申請までの流れ

15.グローバルHIVコントロールに向けたワクチン開発

・HIVの多様性

・T細胞誘導HIVワクチン開発

・抗体誘導HIVワクチン開発

・今後に向けて

16.生活習慣病に対するワクチンの開発

・生活習慣病を標的とした能動免疫主導ワクチン

・高血圧ワクチンの開発の歴史

・糖尿病,脂質異常症に対するワクチン開発

最新トピック

17.ワクチンの安全性試験の理論的構築

・バイオマーカーの同定

・開発されているアジュバント

・CpG K3含有HAワクチンの評価

・PolyI:C含有HAワクチンの評価

・アルミニウムアジュバントの評価

・ロジスティック解析

・MF59含有HAワクチンの評価

18.ワクチンの有効性・安全性のバイオマーカー

・アジュバントによる自然免疫活性化メカニズム

・ワクチン成分に対する自然免疫応答の強さを決める因子

・細胞外小胞のマイクロRNAが免疫応答を制御する仕組み

・ワクチンの安全性と有効性のバイオマーカーの未来

19.ワクチン接種と稀ながら発生する副反応

・日本で接種可能なワクチンの種類

・わが国の予防接種後副反応疑い報告システム

・稀ながら発生する副反応の解析

20.感染症新薬・ワクチン開発におけるGHIT Fundの取組み

・三大感染症,そして顧みられない熱帯病(NTDs)

・"市場原理の不足",そして日本が有する可能性

・GHIT Fund―グローバルヘルスへの貢献

・日本そしてGHITの今後の役割

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書籍情報

  • ISBN:9784006528494
  • ページ数:152頁
  • 書籍発行日:2018年12月
  • 電子版発売日:2019年4月3日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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