乳腺腫瘍－WHO分類第5版 改訂のポイント－

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堀井理絵 ［埼玉県立がんセンター 病理診断科］

笹野公伸 ［東北大学大学院医学系研究科 医科学専攻 病理病態学講座 病理診断学分野］

乳癌では近年の疾患の概念の変遷，分子病理学的な研究の進捗，画像診断⊘治療法の進歩に大きな進展がみられ，2019 年に乳腺腫瘍のWHO 分類第5 版が出版された．この第5版で第4 版と比較して大きな変革が認められたところとしては以下のようにまとめられる．

第5 版全体を通しては

1． 主な腫瘍型の章に緒言を設け，一般的な内容に加え第4 版から変更したところを強調した．

2． 全ての章でcore needle biopsy の病理診断の強調．

3． 実際の病理組織診断に関わる項目では，病理診断医が最小限知っておくべき項目を“essential and desirable diagnostic criteria”としてまとめた．

4． TIL（tumor infiltrating lymphocytes）の概念，実際の検討法が記載された．

そして第5 版の各論での主な変更点は以下のようになる．

1． 髄様癌medullary carcinoma はTIL︲rich IBC︲NST という病型となり髄様癌という病名はなくなった．

2． 今まで独立した病型として提唱されてきた特殊な乳癌の病型は全てrare variants ofcarcinoma NST と一括して分類された．

3． LCIS（lobular carcinoma in situ）の概念の変更がみられた．

4． WHO 分類 第5 版を通して全ての臓器で神経内分泌腫瘍の分類を統一化しようとする試みがあるが，この一環として乳腺腫瘍でもNET（neuroendocrine tumor），SCNEC（small cell neuroendocrine carcinoma），LCNEC（large cell neuroendocrine carcinoma）という他の臓器で用いられている病理診断名が使用されることとなった．

加えて第5 版では第4 版と比較すると日本からの執筆者が大幅に増加し，本邦の乳腺病理からの意見⊘視点も十分取り入れられた．そこで今回の特集では実際にWHO 分類の第5 版の執筆に関わった諸先生方にこの改訂でも大きな関心が寄せられた項目に関してご執筆をいただいた．そして日常診療で問題になることも少なくない，WHO 分類第5 版と乳癌取扱い規約第18 版との相違点に関して最後にまとめた．