認知症の人びとの看護 第4版

  • ページ数 : 240頁
  • 書籍発行日 : 2024年7月
  • 電子版発売日 : 2024年7月17日
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商品情報

内容

蓄積されてきた認知症ケアの学識,看護現場で成果をあげてきた取り組みに触れる一冊.待望の改訂第4版

●今版では第1部「認知症を病むということ」,第2部「認知症の人をケアするということ」,第3部「認知症を支える地域包括ケア」の3つのテーマに沿って再構成し,各部に収載すべき事項をあらためて検討している.
●「認知症主要疾患と看護」「身体疾患の治療を受けている人への認知症看護」「専門職間連携」「疫学的視点と政策の変遷」に関する項目は改訂の範囲にとどまらず,新たに書き起こした.
●コラム欄もさらに充実した.「せん妄」「高齢者てんかん」など臨床での困りごとへの助けとなること,「ポリファーマシー」「不穏時/不眠時薬剤投与」など薬剤に関すること,「認知症ケア加算」「せん妄ハイリスクケア加算」「特定認定看護師」など制度に関すること,その他さまざまな情報を収載している.
●初版の発行から20年にも満たない間に,認知症の人の自立と尊厳を支えるケアは大きく変わり,昨年には認知症基本法も成立した.これまでに蓄積されてきた認知症ケアの学識,看護現場で成果をあげてきた取り組みにぜひ触れてほしい.

序文

改訂第4 版の序

国際的に高齢者ヘルスケアの方向性が定まったのは,1991 年に「高齢者のための国連原則」として〈自立」〉〈参加〉〈ケア〉〈自己実現〉〈尊厳〉の5 つの課題が掲げられ,参加国政府の活動を促した頃からではなかろうか.わが国の認知症の人の多くも,寝たきり老人と同様に,痛ましい介護環境に置かれていたが,1986 年,厚生労働省(当時は厚生省)に,痴呆性老人対策推進本部が設置されたことを契機に,認知症対策は高齢者介護政策の主要事項として推進されてきた.1999 年には認知症治療薬ドネペジル(商品名アリセプト®)が承認された.これにより,医療が日々行っている早期受診と治療および回復過程への取り組みは,認知症医療においても当然のものとしてなすべき課題となった.2000 年には介護保険法(1997 制定)が施行された.しかし,この短期間での政策制度改革が,介護および看護従事者等の深刻な不足を生み,社会の問題としてさまざまな角度から取りあげられるようになった.この状況にあたり,日本老年看護学会は,学会使命として認知症看護現任者教育カリキュラムとその教育養成案を作成した.同時に,教育を担える機関を求めながら,日本看護協会がすでに制度化している「認定看護師資格教育制度」に新しい分野として「老人痴呆」を申請した.申請の1 年後,認可目前の2005 年1 月,国は「痴呆」の名称を「認知症」に変更した.それに準じて資格名称を「認知症高齢者認定看護師」に変更した(2007 年には「認知症看護認定看護師」に変更).

初版『認知症高齢者の看護』は,日本老年看護学会委員会メンバーがおもな執筆者となり2007年に発行した.執筆と編集にあたって注意したことは,認知症高齢者の自立と尊厳という理念を各章の内容全体に浸透させることであった.この骨格は,以降に続く改訂版に受け継がれている.

第2 版は『新版 認知症の人々の看護」と改題して,初版から6 年後の2013 年3 月に発行された.この時点で,認知症の早期診断・治療と告知に関する社会的認識は初版時に比べようもないほど浸透したが,同時に若年期に発症する人の告知後に始まる生活と医療支援の課題が浮上した.本書では,若年性認知症の人固有の問題およびすべての認知症の人に対する初期対応の重要性と,その全経過に起こる病態に対応する急性期医療ケアの課題,さらには,当事者(または本人)の意思尊重とその確認,また,病院と施設と在宅ケア・サービス事業組織間における隙間のない連携など,処々の課題をふまえて初版の内容を見直し,加筆・修正した.

第2 版を発行した直後の2013 年6 月,厚労省は,人口的地域差をふまえた各自治体の自主的・主体性にもとづく住まい・医療・介護・予防・生活支援の一体的な提供の方向性として「地域包括ケアシステムについて」を発表した.この前年の2012 年には,わが国の認知症者数は約480 万人であるされ(朝田隆,2013),2025 年には700 万人になると推計された.そして2015 年,国家戦略「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」が発表された.この戦略の大きなテーマは,すべての国民および関係者が「認知症本人の視点を持ち政策立案過程への参加ができること」「政策評価への参画が進むこと」にあった.

第3 版『認知症の人びとの看護』の発行は2017 年である.本書の大きな特徴は「認知症患者」を「認知症の人」に統一したことである.こと認知症に関しては「患者」に象徴される疾患像のアセスメントに偏りやすい.ともすると,認知機能の低下によるさまざまな生活障害をみる目は二の次,三の次に後退しがちになる.そのような支援の方向がスティグマ(汚名)を生みやすい.この観点に立って「認知症の人」に用語を統一した.また,第2 版の発行当時,2025 年の認知症者の推定数だけが喧伝される事態を念頭に,認知症者の激増は高齢者人口が増大することの表れであるという事実を,朝田隆班の調査研究が明確に示していた.ここから知るべきことは,超高齢社会に生きる認知症の人のいまと,これから認知症になるだろう人とその地域の暮らしと環境に関心を向けることであり,軽度認知障害(MCI)者を含めて初期対応と超高齢者の緩和ケアの課題を共有すること,また,それらのアプローチにはface to face の対応が求められるということであろう.第3 版では,この考えをもとに内容全体を見直した.

第4 版は,初版から17 年を経ての作成になる.20 年に満たない間に認知症本人のいきいきとした発言に触れる機会が増えた.それらによって支援者は,人間のもつ測り知れない潜在力や対応力というものに対する自己の認識を新たにしたと思う.同時に「人」と「事」の見かた,進め方と方略をもって自律的にかかわるという古くて新しい伝えは,よりクリアにされたように思う.本著では,これからのケアと看護の方向性を思い描き,全体を3 部に区分した.第1 部は「認知症を病むということ」,第2 部は「認知症の人をケアするということ」,第3 部は「認知症を支える地域包括ケア」をテーマとし,各部に求められる章を配置し,各章と各節の内容構成を見直し,加筆・修正した.

いみじくも,本書発行前年の2023 年6 月に「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」(以下,「認知症基本法」)が可決成立した.この法が描く内容の主格は「認知症の人」である.第3版において「認知症の人」に変えた経緯を想いつつ,この言葉が法に明示されたことは素直にうれしい.新たな治療薬レカネマブ(商品名レケンビ®)も同年9 月に承認された.「認知症基本法」が私たちに問うていることは,“認知症の人に医療・福祉は何ができるか”というこれまでの問いではなく,“認知症の人とともにいかに社会に参画していくか”という,対応する側のかかわり方ヘの問いのようにも思える.専門職がこれまでのように決められた位置に留まったままの「参加・参画」は難しい.“では,その位置を乗り越えて参画した場合の振る舞いはどのようなものであったらよいか”という問いなのではなかろうか.他方,レカネマブの承認によって5~10 数年先の将来に生じているであろう新たな問いも想定しておかなければならない.

本著が,認知症ケアを志す学生や,現場活動の日々さまざまな出来事に直面する看護師とその同志たち,そして教育,研修に従事する方々の参考の書となることを切に願っている.


2024年6月

編集委員を代表して 中島紀惠子

目次

1章 認知症とともに生きるということ

1.新しい認知症観への転換

2.看護における認知症とは

 認知症の定義

 認知症の定義をもとに,認知症看護の焦点を確認すると……

3.「認知症の人」とは

 「認知症の人」のとらえ方と使用する用語の重要性

 「認知症の人」の基礎的理解

4.認知症看護の基本

 “本人視点“を日常のあたりまえに……“本人視点”のスキルを日常のなかで磨く

 ともにある……共在のケア

 本人のありのままの声を聴く……本人発信の支援をしながら

 全人的なニーズを探る……本人そして多資源のチームでともに

 本人にとっての健やかさと安全を守る

 本人が望む暮らしの継続を支える……本人起点で地域の多資源との連携協働

 小さな希望とユーモアを……あきらめずに楽しく解放される一時をつくり好転を待つ

5.認知症看護の今日的課題

 先を見越した認知症看護の組織的な拡充

 本人の声と力や価値観に応じた看護の共創

 本人の声から進める認知症バリアフリーと,看護ならではの機能の発揮

 地域で求められる看護役割機能の強化……早期から最期まで継続的な暮らしを守るハブに

 自分ごととして,当事者性をもった認知症看護の質向上……日々のなかで

2章 認知症の病態・アセスメント・治療

1.国際的に用いられている認知症の診断基準

 DSM-5,NIA-AA,ICD-11における認知症の診断基準

 認知症の原因となる疾患

2.認知症の原因疾患の診断基準,病態と経過

 アルツハイマー型認知症

 血管性認知症

 レビー小体型認知症(DLB)

 前頭側頭葉変性症(FTLD)

3.認知症の認知機能障害と行動・心理症状(BPSD)

 認知症の認知機能障害

 認知症の行動・心理症状(BPSD)

 認知症の認知機能障害の評価

 認知症のBPSDの評価

4.薬物療法のマネジメント

 認知症の人の生活の質向上を目的とする薬物療法

 認知症の人に使用される頻度が高い薬剤

 薬物療法における注意点と看護職の役割

 薬物療法の目的・効果を多職種チームで共有する

3章 認知症の人の看護における倫理

1.認知症の人に生じやすい二重の困難さ

 認知症の人自身のなかにあるズレ

 認知症の人と家族や周囲との関係におけるズレ

2.認知症の人の意思表示

3.認知症の人の意思決定支援

4.アドボカシー

5.認知症の人にかかわる倫理的課題

 身体拘束

 虐待

6.認知症の人の倫理的課題への対応

4章 認知症の人とのコミュニケーション

1.かかわりの糸口

2.コミュニケーションの定義

3.コミュニケーションの基本

 コミュニケーションに影響を及ぼす要因

 言語・非言語メッセージの理解

4.認知症の人とのコミュニケーションの特徴

 アルツハイマー型認知症の進行に伴うコミュニケーションの特徴

 アルツハイマー型認知症以外のタイプごとの特徴

5.コミュニケーション能力のアセスメント

 視力・聴力のアセスメント

 言語メッセージを中心としたコミュニケーションのアセスメント

 非言語メッセージのアセスメント

 発語発声器官のアセスメント

6.コミュニケーションへの援助

 援助者自身の態度を振り返り,聞く力を身につける

 コミュニケーションに適した環境づくり

 コミュニケーションの可能性に働きかける

5章 認知症の人の生活環境・療養環境づくり

1.認知症の人にとっての「環境」

 環境

 環境世界

 生活と暮らし

 生活環境と療養環境

2.環境変化が認知症の人に及ぼす影響

 移転ストレス症候群(RSS)

 移転による環境変化がもたらす「生活の落差」

 環境変化がもたらす認知症の行動・心理症状(BPSD)

3.生活環境・療養環境づくりのための原理・原則

 当事者本位の環境づくり

 認知症の人と社会とをつなぐ環境づくり

 理論と実践を兼ね備えた意図的な環境づくり

4.環境づくりのための理論とモデル

 環境をデザインするための「ナッジ理論」

 環境モデル

5.認知症の人の環境アセスメントと指針

 環境アセスメントのための枠組み

 環境支援指針

 環境づくりで考慮すべきアセスメントの視点

6.認知症の人の生活環境・療養環境づくりの進め方

7.認知症の人の生活環境づくりの実際

 初期診断後の環境づくり

 地域社会における環境づくり

 日常生活における環境づくり

8.認知症の人の療養環境づくりの実際

 入院時における療養環境づくり

 転倒転落の予防に向けた療養環境づくり

 認知症の行動・心理症状(BPSD)の予防に向けた療養環境づくり

 治療・検査をふまえた療養環境づくり

6章 認知症の人のケアマネジメント

1.ケアとケアマネジメントの今日的課題

 看護マネジメントの視点と課題

2.認知症ケアマネジメント

 ケアマネジメントに求められる中間管理職の役割

 認知症の人のケアマネジメントの視点と方法

 多面的情報の統合評価

 生活リズム回復のためのケアマネジメント

 ケアマネジメントの成果を何から評価するか

 認知症の人の意思決定支援

3.活動の場の違いによるケアマネジメントの諸課題

 病院におけるケアマネジメントの役割と課題

 介護保険施設におけるケアマネジメントの役割と課題

 訪問看護ステーションと看護小規模多機能型居宅介護におけるケアマネジメントの役割と課題

7章 認知症の主要疾患と身体疾患をあわせもつ人の看護

1.認知症主要疾患とその症候群におけるマネジメントの要点

 アルツハイマー型認知症

 血管性認知症

 レビー小体型認知症

 前頭側頭葉変性症

2.身体疾患の治療が必要な認知症の人の看護

 加齢による健康状態の変化

 薬物療法の影響

 侵襲的治療や生活様式の変容を伴う医療とその支援

3.認知症の人にとって問題となりやすい身体疾患と看護

 慢性心不全

 糖尿病

 慢性腎臓病

 大腿骨近位部骨折

 がん

 感染症

8章 認知症の人のエンドオブライフ・ケア

1.エンドオブライフの考え方

 有終の美を飾ることを目標とする

 認知症のエンドオブライフ・ケア

 認知症の人の意思の尊重

 終焉の時を支える社会の動き

 死は人生のプロセスのひとつ

2.より良い旅立ちに向けてのマネジメント

 旅立ちを意識する時期

 良い旅立ちのための症状マネジメント……終末期の徴候

 エンドオブライフ・ケアにおける家族マネジメント

 エンドオブライフ・ケアにおけるスタッフ側の課題

3.人の良き旅立ちのあり方

 当事者の状態に目を向ける

 当事者の望むありたい最期を支援する

4.エンドオブライフ・ケアにおける基本ケア

 最期の時を心地良く過ごしてもらうために

 臨死期症状に対するケア

 最期の時を心地よくするための多職種連携・協働における看護職の役割

5.家族のグリーフケア

 日々のケアが家族のグリーフケア

 家族に良い余韻を残す

6.スタッフの教育

 日々のケアの意味づけ……ケアを語る

 ケアリングを基盤としたエンドオブライフ・ケア教育

9章 家族が介護するということ,支えるということ

1.家族とは何か

2.家族の多様化

 家族のライフ・コース

 高齢者世帯の動向と未婚率の増加

 認知症介護家族の劇的変化

3.介護家族の“内実”を知る

 用語(介護)の由来

 介護家族の“ケア”を意味づけるもの

 介護困難の内実

4.介護家族の支援のあり方

 認知症の診断・告知,その前後に起こりやすい家族の苦悩

 知識や情報ではない,本人・家族が求めている支援

 家族アセスメントの必要性

 パートナーシップにもとづく家族支援

 ピアグループ(peer group)とのパートナーシップ

10章 認知症支援における専門職間連携 ―地域包括ケアの目線から

1.地域包括ケアシステム

 地域包括ケアシステムとは

 地域包括ケアの本質

2.専門職間連携

 連携の基盤となる考え方

 チーム医療

 病院内チーム:認知症ケアチーム

 地域内チーム活動の実際:認知症初期集中支援チーム

3.これからの専門職間連携

 専門性の高い看護師の活用

 情報共有のDX(digital transformation)

11章 認知症の疫学的視点と政策の変遷

1.認知症の疫学的視点

 世界における認知症の疫学的動向

 日本における認知症の疫学的動向

2.認知症政策の変遷

 世界における認知症施策

 日本における認知症施策の変遷

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書籍情報

  • ISBN:9784263710722
  • ページ数:240頁
  • 書籍発行日:2024年7月
  • 電子版発売日:2024年7月17日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
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