はじめに

本書は，主に診療や臨床研究に携わる医療者向けに，日々アップデートされる医学・医療の論文情報を効率よく検索・収集・管理するためのスキルをお伝えすることを目的としています．

近年，各種の国際ジャーナルに掲載される論文数は急速に増加しています．文献検索ツールの1 つであるPubMed を用いて，例えば「Obesity」を検索すると，1990 年に1,943 編だった論文数が2020 年には32,480 編まで増加しています．年々新たに出版される論文全てを把握することは不可能な状況です．

根拠に基づく医療（evidence-based medicine）の実践にあたっては，日常臨床におけるクリニカル・クエスチョンに答えることのできる医学論文情報を効率的に検索する必要があります．学会発表の準備や論文執筆の際には，研究テーマに関する世界の動向や最新の知見をレビューし，すでにわかっていること，まだわかっていないことを的確に把握しなければなりません．

多忙な日常診療の合間を縫って，知りたい情報が載っている文献にたどりつくには，種々の検索エンジンや文献管理ツールを縦横無尽に使いこなし，膨大な医学論文情報を効率的に検索・整理することが重要となります．

本書は，4 章で構成されます．第1 章「医学論文情報収集の手段」では，まず，さまざまな文献検索ツールを紹介します．英語の文献検索や情報収集のツールとして，PubMed，Google Scholar，Embase，Web of Science，Cochrane reviews，UpToDate を取り上げます．また，日本語の論文検索ツールとして，医中誌Web，CiNii を取り上げます．それぞれの長所や短所，どのようなときに活用すればいいかなどについて解説します．また，診療ガイドラインの活用方法にも触れます．自分の探したいテーマに沿って，使用する検索ツールを使い分けられるようになれば，欲しい情報を効率よく見つけることができるようになるでしょう．

第2 章「PubMed による文献検索」では，もっとも汎用されているPubMed について詳述します．目的とする文献を効率的に検索するためのポイントを，実際のPubMed の画面キャプチャを紹介しながら解説します．

第3 章「Google Scholar による文献検索」では，PubMed よりもさらに広範な情報をカバーしているGoogle Scholar に焦点を当て，実際の画面キャプチャを紹介しながら，その活用方法を解説します．

第4 章「文献管理ツール」では，文献の整理や保存，論文作成時の引用文献リスト作成などに役立つ，EndNote などのツールを紹介します．文献管理ツールを用いれば，文献情報を取り込み，オリジナルのデータベースを作成できます．論文執筆時には，簡単に引用・参考文献リストを作成・出力できます．まだ論文を書く段階ではないという方も，早めにこうしたツールを使って，文献の整理に慣れておくとよいでしょう．

読者の皆様が本書を活用し，一歩進んだ文献検索・整理術を身につけ，日常診療や臨床研究に役立ていただければ幸いです．

2021年6月

重見大介，岩上将夫，康永秀生