監修のことば
私が杉田陽一郎先生と一緒に仕事をさせていただいたのは,杉田先生が卒後5年目のときでした.「Vスキャンを個人で持っている人」,「PowerPoint にまとめるのが上手な人」というふれこみで私の前に現れました.実際に一緒に仕事をしたときのインパクトは今でも忘れません.「巨星現る」,それが私の第一印象でした.「疾患の病態生理への理解」,「個々の症例への莫大な知識量」,「数学を説くがごとく流れるような臨床推論」,「後輩たちへの丁寧な教育」,そして実地臨床をしていくうえでも最も大事な「患者さんへの愛情」など巨星たる所以を挙げると枚挙にいとまがありませんでした.この本が出版される頃には杉田先生は卒後8年目になっていますが,おそらく卒後5年目で,ほぼ本書の内容は杉田先生の中で完成していたのではないかと思います.驚くべきことです.私が本書の監修にまさか関われるとは思っておらず,お話があったときはとても光栄に感じました.
本書を手にとっていただければ,いかに初期研修医をはじめとした若い研修医の立ち位置をよく理解した杉田先生ならではの内容になっているかがおわかりいただけるでしょう.難解な成書を読むことはもちろん大事ですが,あまり時間もない,でもなるべく早く基本的病態を理解したい,そんな若い研修医が「なるほど」と思っていただけるような病態生理への解説となっています.また,初期研修医の目線で,研修現場において「今必要な知識や理論」を簡潔に網羅しています.電子版も合わせて販売されるため,ベッドサイド,救急外来,現在必修化となった一般外来研修の現場で,機動力のある,「今この時」から使える書籍になっているかと思います.
杉田陽一郎先生の著書をサポートできたことは私にとって,とても大切な時間となりましたが,本書が初期研修医だけでなく,専攻医や若手医師の皆様の実地臨床にお役にたつことができればとても嬉しいです.
2022年1月
地方独立行政法人 総合病院国保旭中央病院 総合診療内科
塩尻 俊明
序
現在の臨床医学は新しい治療法,治療薬が日々開発されており日進月歩です.私たち臨床医は,最新の医学知識・エビデンスに遅れをとらないように日々焦燥感を抱えながら走り続けています.その一方で,臨床医学では今も昔も変わらず重要なテーマが数多く存在します.感染症診療でのグラム染色を中心とした微生物学診断にこだわる姿勢や,血液ガス検査の解釈,意識障害へのアプローチなどのテーマは,おそらくこの先もずっとその内容が大きく変わることはないのではないかと思います.今後AIがいくら進化したとしても,病歴,身体所見をとり,基本的な検査結果を正しく解釈して総合的に診断,治療へアプローチするという臨床スタイルはずっと重要であり続けると私は信じています.
本書は研修医の先生方を対象として,病棟・救急外来でこの先もずっと役立つ内科の重要なテーマを選んでまとめたものになります.本書の執筆には約2年を要しましたが,内科医としての未熟さが露呈してしまう「恥ずかしさ」と少しでも後輩に役立つ書籍が提供できればという「淡い期待」の入り混じった複雑な感情を抱きながら執筆をつづけていました.治療に関しては遅れている内容があるかもしれないし,最新の技術は紹介できているとは決して言えません.また普段私が診療しない腫瘍,間質性肺炎,肺高血圧症などのテーマに関しては全く扱っていないため物足りなさを感じる点も数多くあると思います.一内科医の足搔きに過ぎないかもしれませんが,本書が研修医の先生方にとって少しでも内科診療を学ぶ足がかりになることができましたら幸いです.
最後に本書の監修をしてくださった塩尻先生,これまで多くをご指導いただいた先生方,切磋琢磨した同僚,一緒に眠い目をこすりながら当直を戦った後輩,いつも支えてくれた看護師さんをはじめメディカルスタッフや事務の方々,辛抱強く尽力してくださった羊土社の方々,優しく支えてくれた家族,そして何よりこれまで多くを教えてくれた患者さんへの感謝を込めて本書を献じます.
2022年1月
武蔵野赤十字病院 神経内科
杉田 陽一郎