厄介で関わりたくないアルコール依存症患者とどうかかわるか

  • ページ数 : 196頁
  • 書籍発行日 : 2023年10月
  • 電子版発売日 : 2023年9月27日
3,300
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商品情報

内容

依存症は「回復する病気である」ことが分かると,かかわりかたも見えてくる.

アルコール依存症というだけで,「厄介でかかわりたくない患者」とされる.著者自身もかつてはそう思っていた.患者と会うことさえ嫌になったこともあった.しかし今は,外来に来てくれる患者を心から歓迎できるようになった.著者は言う.「依存症は,人とのかかわりにおいて回復する病気である」と.本書では,治療者や支援者側の誤解と偏見を詳らかにし,アルコール依存症患者とのかかわりかたを丁寧かつ包括的に解説した.

序文

序文

筆者は日々依存症臨床に携わる一精神科医である.長年にわたって依存症患者の治療に当たってきた.

かつて,筆者にとって依存症患者は「厄介で関わりたくない」人たちであった.言うことを素直に聞いてくれない.指示に応じてくれない.応じないどころか反発してくる.次々とトラブルを起こす.治療意欲が乏しい.イライラして切れやすい.そして,酒をやめない.つまり,こちらの思い通りにいかず,逆に治療者を攻撃してくる.とんでもない人たちであった.

患者は人間不信を抱えて生きづらさに苦しんでいた.彼らにとって,アルコールは命綱であった.しかし,当時の筆者は,そのことを理解できず無理やりアルコールをやめさせようとしていた.やめさせることが絶対的な正義であって,変わらない患者が悪いと考えていた.思い通りにならない患者に対して陰性感情を募らせ,患者を批判していた.

そこに絶対的に欠けていたものがある.それは,患者を尊重する姿勢であり,患者に対する共感であり,患者との信頼関係である.患者の思いを想像することなく,共感することなく,一方的に「正しいこと」を強要していた.そして,飲酒は「失敗」として患者に反省を促していた.

その後,紆余曲折があって,筆者の治療スタンスは大きく変わった.酒を飲むかやめるかは患者が決めることであり,やめない自由と権利もあること,患者と信頼関係が築けていなければ,どんな提案をしても受け入れられないこと,逆に信頼関係を築きさえすれば患者は変わり始めることを知った.

依存症治療の目的は,やめさせることではなく,人と信頼関係を築けること,そして人に癒されるようになることである.そう気づいてからは,治療が格段に楽になった.摩擦や対立は消えた.患者を無理に変えようとせず,信頼関係を築くことが依存症治療のコツである.それを知ってから,依存症患者との関わりは苦痛から喜びに変わった.患者が治療に来てくれることが嬉しくなった.「ようこそ」「また来てくださいね」と心から言えるようになった.

一般に,アルコール依存症患者は厄介で関わりにくいとされている.ただし,その原因は治療する側にあることに気づいた.信頼関係のないまま強要することがいかに反治療的であるかを知った.「厄介で関わりたくない」アルコール依存症患者を回復に導くことは決して難しいことではない.患者を小手先で変えようとするのではなく,一人の人間として敬意をもって向き合い,患者に治療者を信用してもらえるように寄り添い続けることである.そのためには,「やめさせる支援」ではなく,「患者の困っていることの支援」でなければならない.

これまで治療の過程で患者も治療者もしばしば傷ついた.治療の過程でどうして対立が起こるのか.傷つくのか.それは何かがおかしいと気づかなければならない.信頼関係を築けていなければ,どのような働きかけを行ったとしても徒労に終わる.強要や叱責,表面的なテクニックではなく,患者と対等の立場で向き合い,心通じる関係を築くことが不可欠である.では,そのためにどうすればいいのか.本書はその答えを具体的にまとめたものである.

「厄介で関わりたくない」アルコール依存症患者であっても,治療者の関わり方によって変わり始める.この事実を多くの読者に実感していただければ,筆者としてこれ以上の喜びはない.


2023年8月

成瀬 暢也

目次

I 厄介で関わりたくない依存症患者を理解する

 1アルコール依存症とはどんな病気なのか?

 2アルコール依存症患者とはどんな人なのか?

  1 依存症患者によくみられる具体的な特徴

   1.本当は,完璧主義できちんとしなければ気がすまない

   2.本当は,柔軟性がなく不器用で自信がない

   3.本当は,頑張り屋で,根はきわめてまじめである

   4.本当は,やさしく人がいい

   5.本当は,気が小さく臆病で寂しがりである

   6.本当は,人に受け入れられたいが,受け入れられないと思い込んでいる

   7.本当は,生きていることがつらくて仕方がない

  2 アルコール依存症患者を理解した支援

 3厄介なアルコール依存症患者とは?

 4どうして依存症患者は厄介なのか?

 5依存症患者にとってアルコールとは?

  ストーリー1

  ストーリー2

 6依存症患者の背景にある6つの特徴

 7依存症患者の背景にある「人間不信」

 8厄介な患者ほど人間不信が強い

 9患者は不安で苦しんでいる

 10どうして患者は素直でないのか? 

 11どうして患者は強がるのか?

 12どうして患者はいざというときに飲むのか?

 13どうして患者は死にたくなるのか?

 14どうして患者は素直にSOSを出せないのか?

 15患者には頑張っていた時期が必ずある

 16生育環境が依存症患者を作る

 17「孤独な自己治療」としての飲酒

 18患者の「人間不信」の背景を想像する

 

II 厄介で関わりたくない依存症患者に介入する

1依存症患者の「人間不信」に介入する

2厄介な依存症患者に具体的にどう関わるか?

 1 問題行動のある患者の対応

  1.酔って絡む患者

   2.すべてに反発する患者

   3.家族や身内に威張る患者

   4.飲酒問題を指摘すると激昂する患者

   5.酔って暴言・暴力がある患者

   6.受診・相談を拒む患者

   7.酒をやめようとしない患者

   8.反省しても懲りない患者

   9.酒を買ってくることを強要する患者

   10.他人の批判や愚痴ばかりの患者

   11.平気でうそをつく患者

   12.平気で約束を破る患者

   13.飲酒運転を繰り返す患者

   14.「死にたい」と繰り返す患者

   15.自殺企図を繰り返す患者

   16.「人に危害を加える」と言う患者

   17.刃物を持ち出す患者

   18.酒を万引きしてくる患者

   19.反社会的勢力と関係のある患者

   20.容易に自暴自棄になる患者

   21.執拗に何事も依存してくる患者

   22.恋愛感情や性的な欲求を向けてくる患者

   23.ストーカーになる患者

   24.性的逸脱行為を繰り返す患者

   25.訪問看護に無理を強要する患者

   26.ヘルパーに酒の購入を強要する患者

   27.精神科病院の入院が長期の患者

  2 身体的に重篤な患者の対応

   1.身体疾患や外傷で救急外来受診や入院を繰り返す患者

   2.身体疾患が重篤だが飲酒を続け受診を拒む患者

  3 症状や併存症のある患者の対応

   1.嫉妬妄想が激しい患者

   2.認知機能が低下している患者

   3.離脱症状が激しい患者

   4.渇望期の症状が激しい患者

   5.うつ病のある患者

   6.双極性障害のある患者

   7.不安障害・パニック障害のある患者

   8.統合失調症のある患者

   9.発達障害・知的障害のある患者

   10.境界性パーソナリティ障害のある患者

   11.摂食障害のある患者

   12.慢性疼痛のある患者

   13.処方薬乱用・依存のある患者

   14.ギャンブル障害のある患者

  4 治療がうまくいかない患者の対応

   1.受診をかたくなに拒む患者

   2.受診しても治療に反発のある患者

   3.治療が途切れてしまう患者

   4.予約もなく酔って突然現れる患者

   5.予約を繰り返しキャンセルする患者

   6.治療スタッフに酔って絡む患者

   7.他の患者を飲酒に誘う患者

   8.入院してもすぐに退院してしまう患者

   9.入院を何回も繰り返す患者

   10.入院中に何度も飲酒する患者

   11.入院中に問題行動を繰り返す患者

   12.治療者に暴言・暴力のある患者

   13.治療意欲の低い患者

   14.孤独でだれにも心を開かない患者

   15.生きる望みを失っている患者

   16.治療者が陰性感情を募らせる患者

   17.何をやっても治療がうまくいかない患者

   18.断酒意欲があるのに全くやめられない患者

  5 高齢患者,若年患者,女性患者の対応

   1.高齢の患者への対応

   2.若年の患者への対応

   3.女性の患者への対応

  6 家族の問題がある患者の対応

   1.家族が治療に理解がない患者

   2.家族から罵倒される患者

   3.患者の言いなりになる家族がある患者

   4.離婚されて家族を失った患者

   5.天涯孤独な患者

  7 生活困難な患者の対応

   1.仕事を失って生活保護の患者

   2.家を失って施設入所の患者

   3.多額の借金がある患者

   4.親兄弟から見捨てられた患者

   5.生活能力の低い患者

 

III 厄介で関わりたくない依存症患者の対応のコツ

 1厄介で関わりたくない患者の原因は「人間不信」である

 2人間不信が解決すれば依存症は回復する

 3信頼関係ができていないのに断酒を強要してこなかったか

 4信頼関係づくりが治療・支援の成否を決める

 5心の伴わない治療・支援は反発を生み出す

 6同時に支援者も患者に陰性感情・忌避感情を持ってしまう

 7「人間不信」の強い患者との関わり方

 8支援者自身をチェックする

 9自身の持つ患者に対する陰性感情・忌避感情を扱う

 10厄介で関わりたくない患者ほど劇的に回復する

 11患者と信頼関係を築けると支援者も幸せを感じられる

 12厄介な依存症患者と上手に関わるコツ

 

IV 臨床場面でどのように患者と関わるか?

1患者と関わる前にしておきたいこと

 1.自助グループで回復者に会い話を聴く

 2.セミナーやフォーラムで回復者の話をたくさん聴く

 3.依存症の回復をイメージできるようになる

 4.回復が生まれる温かい雰囲気を感じられる

 5.回復を楽観的に信じられるようになれる

2患者と初めて関わる際の流れ(治療契約まで)

 1.患者に対して困っている人として向き合う覚悟をする

 2.患者が受診することの大変さを理解している

 3.患者の受診を歓迎の意を表して親切に受け入れる

 4.同伴者がいる場合,一緒がいいか別がいいか聞く

 5.患者が困っていることを丁寧に聴く

 6.患者がどうしたいか・どうなりたいかを丁寧に聴く

 7.これまでの病歴を話してもらい,流れをつかむ

 8.これまでの生い立ちを話してもらい,丁寧に聴く

 9.生きづらさを認めた場合は,苦労をねぎらう

 10.生きづらさの原因・逆境体験などを丁寧に聴く

 11.これまで一人で頑張ってきたことを十分評価する

 12.依存症の背景にある6項目の問題について尋ねる

 13.原因は「人間不信」「自信喪失」では,と投げかける

 14.アルコールが果たしてきた役割を確認する

 15.苦しければ飲酒量は増えていくことを説明する

 16.飲酒は「孤独な自己治療である」ことを確認する

 17.アルコールなしで生きられなくなっていないかを問う

 18.飲酒のコントロールを失った状態が依存症である

 19.依存症の最大の問題はストレスに弱くなることである

 20.コントロールできないのは意志の問題ではない

 21.「あなたの場合はどうでしたか?」と投げかける

 22.治療に取り組めばよくなることを伝え治療契約を結ぶ

3治療では何をするのか?

 1.飲酒に求めていたものを別のものから得る必要がある

 2.それが「人からの癒し」であると思う

 3.これまで人に癒されることが少なかったのでは?

 4.回復のためには6項目の問題の改善が必要である

 5.人を信じられなかったから孤独で生きづらかったのでは?

 6.まずは正直な思いを話してもらえる場にしてほしい

 

V どうして依存症は自助グループで回復するのか?

1自助グループとは何か?

2自助グループは効果があるのか?

3自助グループは傷の舐め合いではないのか?

4どうして依存症患者は自助グループを敬遠するのか?

5「自分には合わない」という患者にはどうするのか?

6自助グループにつなぐにはどうすればいいのか?

7自助グループにどの程度通えばよくなるのか?

8回復施設(リハビリ施設)はどんなところか?

9回復施設(リハビリ施設)は有効なのか?

10自助グループや回復施設の実践から何を学ぶのか?

11治療者・支援者が知っておきたいこと

 

VI 患者をどのように回復に導くか

1はじめに

 1.あなたの問題は?

 2.あなたは自分が依存症だと思いますか?

 依存症とは何なのか?

 3.あなたはどうなりたいですか?

 4.本気で変わる覚悟はできていますか?

 5.とっておきの「これだけ」に取り組んでください

 6.問題の解決だけではなく幸せに近づくでしょう

2さあ,はじめましょう!

 ステップ1 依存症は病気であり,がまんと意志の力ではコントロールできないことを認められますか?

  1.がまんでコントロールできないのが依存症である

  2.依存症は病気であると理解する

  3.自分が依存症であることを確認する

  4.間違いだらけの依存症を正しく理解する

  5.依存症はメンタルヘルスの問題である

 ステップ2 回復のために,自己流ではなく人の提案を受け入れる準備はできていますか? 自己流を手放しましょう.

  1.自己流の対処ではうまくいかなかったことを認める

  2.自己流を手放す

  3.提案を受け入れてこれまでとは別の方法を試みる

 ステップ3 がまんと意志の力だけで対処することはやめられますか? これがうまくいかない最大の原因です.

  1.がまんだけで対処することは何もしないことである

  2.がまんだけで対処することをやめる

 ステップ4 あなたが飲酒したくなったり薬物を使いたくなったりするのはどんなときですか? 書き出してみましょう.

  1.飲酒や薬物使用欲求が高まるのはどんなときか考える

  2.その刺激を生活から遠ざける方法を具体的に考える

 ステップ5 あなたはこれまでアルコールや薬物に何を求めていたのでしょう? 具体的に書き出してみましょう.

  1.自分はアルコールや薬物に何を求めてきたかを知る

  2.アルコールや薬物がもたらしてくれたものは何か

  3.アルコールや薬物によって対処することの限界を知る

  4.アルコールや薬物に代わる「癒し」を獲得しよう

  5.他の酔う方法は他の依存症・アディクションになる

 ステップ6 依存症のもとには人間関係の問題があります.あなたに心当たりはありますか? どんな問題がありましたか?

  1.自分の人間関係の持ち方を振り返る

  2.自分の人間関係の問題を知る

  3.「生きづらさ」は何が原因であったかを振り返る

 ステップ7 多くの依存症の人には共通した6つの人間関係の問題があります.あなたはどうでしょうか?

  1.自分に6つの人間関係の問題があるか考えてみよう

  2.依存症の背景にある「6つの問題」を解決していく

 ステップ8 あなたは人に心を開いて相談できていましたか?一人で問題を解決しようと頑張ってきませんでしたか?

  1.あなたはいつも一人で頑張ってこなかっただろうか

  2.ストレスに対してどのように対処してきただろうか

  3.あなたは信頼できる人に相談してきただろうか

  4.あなたに信頼できる人はいただろうか

 ステップ9 依存症からの回復には人から癒され,心満たされることが必要です.今あなたは人から癒されていますか?

  1.あなたはこれまで人に癒されてきただろうか

  2.あなたが癒される新しい方法は「人からの癒し」である

 ステップ10 人から癒され心満たされるためには,人と信頼関係を築くことが課題になります.そのための行動をできますか?

  1.人と信頼関係を築く覚悟をする

  2.回復のために行動することを決心しよう

  3.信頼関係を築くための行動を始める

  4.信頼できそうな人は誰かリストアップしよう

  5.信頼できそうな人がなければ相談機関へ行こう

  6.困っていることを正直に相談しよう

  7.うまく話せる自信がなければメモを作っていこう

  8.勇気を持って依存症の専門医療機関に連絡してみよう

  9.一人で行く勇気がなければ誰かに同伴してもらおう

  10.誰かに話すことで少し楽になれることを実感しよう

 ステップ11 あなたは自助グループに通ったことがありますか?自助グループがどうして回復に有効なのか考えてみましょう.

  1.自助グループとは何かを知る

  2.自助グループで回復する理由を知る

  3.自助グループに通うことを覚悟する

  4.自助グループに通う計画を立てる

 ステップ12 あなたが本気で回復を望むのであれば,自助グループに通い続けましょう.そこで信頼できる仲間を作りましょう.

  1.正直な思いを話せている人を探して話を聴く

  2.自分自身が正直な思いを話せるように心がける

  3.心を開けると楽になれることを実感する

  4.心開いて正直な思いを話し続けよう

  5.治療者や同じ問題を持つ仲間とつながり続けよう

  6.人との間に信頼関係を築いていければ回復できる

  7.人に癒され回復が進むと本物の幸せを感じられる

 

VII 人間不信から人間信頼へ

 1厄介な依存症患者でも変われる

 2自助グループが生み出す奇跡の回復

 3絶望から希望へ

 4回復者に学ぶ

 5人が人に癒されるということ

 6信頼をつないでいける社会へ

 

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書籍情報

  • ISBN:9784498229501
  • ページ数:196頁
  • 書籍発行日:2023年10月
  • 電子版発売日:2023年9月27日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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