はじめに

食事と健康とは密接に関係しています．食事は生きる喜びと力を与えてくれる一方，偏った食事や暴飲暴食は健康を害し，疾病の原因ともなります．適切な食事は成長を促し，健康を増進・回復させますが，不適切な食事は発育の不良や疾病の増悪をもたらします．臨床栄養学は栄養学と医学・医療を融合し，疾病の治療や予防を担うものです．

現在の医療は，医師が単独で治療にあたるのではなく，看護師，薬剤師，管理栄養士など他の医療スタッフと合同で医療を行う「チーム医療」が推進されています，管理栄養士は，それぞれの領域のプロフェッショナルと連携しながら，さまざまな疾病についての栄養食事療法のマネジメントを行っています．本書「臨床栄養学Ⅰ　総論」（基礎編）は第1 部と第2 部に分かれており，「第1 部　臨床栄養学と栄養ケア」では，栄養ケアの基礎，栄養アセスメント，栄養ケアプランの作成と実施などを解説しています．「第2 部　治療と栄養ケア」では，発熱などの症候への栄養ケア，新生児期・乳幼児期の栄養ケア，外科手術などからの回復を促す栄養ケア，終末期の栄養ケアについて解説しています．さらに付録では，令和6年度の主な改定を盛り込んで，治療や療養など栄養管理に関わる診療報酬制度について解説しています．

本書の続編である「臨床栄養学Ⅱ　各論」（疾患編）では，疾患別の栄養ケアを解説しています．総論と各論をあわせて，臨床栄養学を学習する構成になっています．医学の進歩や介護・福祉などの制度の改革，疾病構造の変化や食生活の多様化に応じて，臨床栄養学はさらに発展し続けることでしょう．しかし，栄養学を疾病の予防と治療に役立てるという臨床栄養学が追求するものやその意義は不変です．臨床では患者さんと向き合い，訴えに傾聴し，ケアやキュアを介して患者さんの応答から学ぶ姿勢を持ち続けることが大切です．

本書の執筆を，臨床医，栄養研究や臨床医学系の教育に関わる諸先生，そして臨床栄養学の実践者である第一線で活躍の管理栄養士の諸先生にお願いしました．ご多用のなか執筆の労をとってくださった諸先生に，感謝の意を表し，厚く御礼申し上げるしだいです．

本書が管理栄養士・栄養士の学生の教科書にとどまらず卒後の臨床活動においても活用されることを願っています．また看護師，薬剤師，臨床検査技師などの研修の参考書としても利用され，臨床栄養学の共通理解につながることを期待しています．

2024年9月吉日

編者　本田佳子