はじめに

わたしたちの生命活動は栄養によりもたらされ，これにより生体内の物質は日々入れ替わっていきます．ヒトは空腹になれば食を欲し，生命活動の源となる必要な物質を確保します．その一方，栄養学は科学として進歩し続け，栄養素栄養学と人間栄養学─ミクロとマクロへと発展しています．近年，栄養学に関わる人びとの健康意識は高まり，とりわけ世界に類をみない急速な高齢化が進展するわが国では，健康寿命を如何に確保するかが課題となっています．そのために日常の適正な食事，運動，休養，そして精神の安定を心がけ，疾病の発症を予防しあるいは進展を阻止し，保健性を保持することが個人のみならず社会全体に求められています．臨床栄養学は，病気に罹患した人への“ 生命の営み” に関与する栄養を追究する学問領域です．患者さんの病気や病態・症状，そして施されている薬物療法や外科療法などの治療に応じて，患者さんの生体環境（内部環境）は異なります．これら特殊な生体環境と栄養生理（病態生理）を理解したうえで疾患あるいは病態への具体的な栄養食事療法を学ぶことが大切です．　このような背景から，本書「臨床栄養学Ⅱ　各論」（疾患編）は，治療のなかでも栄養食事療法が重要となる疾患を網羅的に抽出しました．そして疾患の病態に対応した栄養食事療法を紐解くに当たり，まず疾患の概要（成因や疫学，症状），診断，治療について解説しています．ついで栄養食事療法の治療での位置づけを明確にすべく栄養生理（病態栄養）について解説し，疾患ごとの栄養食事療法を特徴づけるべく，栄養食事療法の基本方針を示しました．さらに，栄養ケア・マネジメントのプロセス（Nutrition Care Process）に準拠し，栄養アセスメント・モニタリング，栄養管理目標と実際とした項目構成で解説をすすめました．本書で取り上げた疾患ならびに項目構成によって，管理栄養士・栄養士養成の栄養教育モデル・コア・カリキュラムとの整合が図られ，かつ，国家試験ガイドラインの学習すべき大項目・中項目・小項目の内容への解説が叶いました．

本書の執筆を，臨床医，臨床医学系の教育に関わる諸先生，そして臨床栄養学の実践の第一線で活躍の管理栄養士の諸先生にお願いしました．たいへんご多用のなか執筆の労をおとりくださった諸先生に，感謝し，厚く御礼申し上げるしだいです．

本書が管理栄養士・栄養士の学生の教科書にとどまらず卒後の臨床活動においても活用されることを願っています．また看護師，薬剤師，臨床検査技師などの研修の参考書としても利用され，臨床栄養学の共通理解につながることを期待しています．

2024年9月吉日

編者　本田佳子