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- 臨床に直結する 感染症診療のエビデンス
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序文
序 文
筆者は,「感染症診療のエビデンスに関する本を企画したい……」という依頼を受けるにあたり,岩田健太郎先生と大曲貴夫先生を編集者として選ぶことを条件とした.それは,両医師がエビデンスを大量に熟知していながらも,エビデンスの前に,患者さんを大事にする「臨床医」であることを知っていたからである.統計学的なエビデンスの強さと,一人の患者さんが持つ極めて固有な状況が求めるものの距離.この距離を暖かく扱える,本当の臨床家以外とは本企画を考えたくなかった.これは経験上,エビデンスを振りかざす医師の約半数が,ともに患者さんをケアする同僚としても自分の健康を委ねる主治医としても好ましい存在ではなかったことに根ざしている.このあたりの事情は,本企画のグランドデザインを考える中で,「是非,ご参加頂こう」ということになった名郷直樹先生がご執筆された第1章を読んで頂けば明らかになる.
「何が臨床で求められるエビデンスか? 何が現場でアジェンダになりうるか?」を公募することから始まった本書は,本当の臨床現場からしか出てこない疑問や提案が高密度に詰まっている.それらの中には以下のようなものがある.
① 今まで正しいとされてきたことに対する再チャレンジ(例:抗菌薬はゆっくり入れるほうが良いか?)
② 以前から駄目とされてきた事柄の最終的な駄目出し(例:風邪に抗生物質は効かない)
③ 意義の不明なまま慣習的に行われてきたことの再検討(例:うがいによる風邪の予防)
④ Controversial な問題のさらに詳細な検討(例:肺炎球菌ワクチンの効果)
⑤ 診療上のPearl・ちょっとしたコツとでもいうべきもの
⑥ アジェンダになるということさえ知らなかった問題の提示
幸い,これ以上望めないような臨床医が執筆者として与えられた.本書が多くの臨床医の目にとまり,「エビデンスがあった上で,その明確さと,現実の臨床のあいまいさに対峙しながら,一人ひとりの患者に向き合っていく以外に,解決の道はない」(名郷先生)ことを肝に銘じて活用されることを切望する.
平成20年3月
サクラ精機(株)学術顧問
青木 眞
目次
1章 感染症診療のエビデンス総論
EBMを利用するにあたって―明確なエビデンスとは何か― 名郷直樹
2章 感染症の検査(一般)にかかわるエビデンス
患者の免疫状態を示すマーカーとは,そのエビデンスは? 萩野 昇
感染症に関連した主要な身体所見の検査特性(感度・特異度)は? 竹島太郎
グラム染色検査の有用性を示すエビデンスはあるか? 椎木創一
ICUや血液病棟で監視培養は意味があるか 加島雅之
血液培養:1セット採取と2セット採取では感度,特異度に差が出るか? 横田恭子
血液培養の採血量は検査の感度,特異度に影響を及ぼすか? 冲中敬二
イソジンは乾くまで待ってから血液培養というが,エビデンスはあるのか? 他の消毒薬では? 菅野圭一
CRPが感染症診療に役に立つとすれば,どんなときにどのように役に立つのか? 大路 剛
真菌抗原検査(β―D グルカン,ガラクトマンナン抗原,カンジダ抗原)の役割とは? 具 芳明
skin swab培養検査に診断的意義はあるのか? 清田雅智
抗菌薬の皮内テストに意味はないのか?意味があるとすれば,どのように運用すべきか? 川本龍一
3章 臓器・疾患別感染症診療にかかわるエビデンス
重症感染症/感染症補助療法のエビデンス
重症感染症における免疫グロブリン療法の効果はあるか? 皿谷 健
敗血症治療においてエンドトキシン吸着療法は効果があるのか? 岸本暢将
緑膿菌の菌血症でクラスの異なる2剤を併用するか,単剤治療を行うか? 大野博司
血漿交換は感染症治療上,効果があるのか? 桐ヶ谷大淳
感染症治療においてステロイド療法が有効な場合はあるのか? 田中竜馬
ステロイドパルス療法に意義はあるのか? 山本舜悟
中枢神経感染症
HSV髄膜炎に抗ウイルス薬は必要か? 桐ヶ谷大淳
呼吸器感染症
肺炎の重症度はどうやって決めるのか? 八重樫牧人
肺炎での尿中迅速検査(肺炎球菌,レジオネラ)の結果の解釈 笠原 敬
急性肺炎に対して抗菌薬投与前に血液培養をルーチンで行うべきか? 仲松正司
市中肺炎では,非定型肺炎の起因微生物を常にカバーすべきか? 内山 伸
肺炎における抗菌薬治療の期間はどうすべきか? 加島雅之
ニューモバックス(Pneumovax)の効果は? 筒井敦子
院内肺炎のグラム染色でグラム陽性球菌をみつけたら,バンコマイシン投与が必要か? 山口征啓
喀痰培養でMRSA陽性の場合はどう判断するか?起因菌とするのか? 定着菌か? 川城麻里
施設から入院した肺炎では緑膿菌をカバーすべきか? 山口征啓
人工呼吸管理中のストレス潰瘍予防とVAP(ventilator-associated pneumonia)- H2ブロッカーとスクラルファート,どちらが良いのか?- 内山 伸
VAP(ventilator―associated pneumonia)の治療法は? 齊藤茂樹
肺MAC症の診断,治療に関するエビデンスはどのくらいあるのか? 原田壮平
ニューモシスチス肺炎(PcP)予防目的のST合剤予防内服は効果があるのか? 源河いくみ
CD4数がいくつだとニューモシスチス肺炎にならないのか? あるいは関係ないのか? 松永直久
クラミジア・ニューモニアの血清学的診断の価値は?IgG? IgA? IgM? マイコプラズマIgM の検査特性は? 筒井敦子
うがいは風邪に効くのか? 米田博輝ほか
風邪に抗菌薬は効くか? 柳澤如樹
急性中耳炎に抗菌薬を出すべきか? 嶋田 聡ほか
急性副鼻腔炎に抗菌薬は出すべきか? 北垣 毅
急性気管支炎に抗菌薬は効くか? 川畑秀伸
インフルエンザワクチンはどれくらい効果があるのか? 米田博輝ほか
インフルエンザでは「誰」を治療すべきか? 鈴木孝明
インフルエンザ脳症の治療は? 予防は? 齊藤茂樹
心内膜炎
感染性心内膜炎に対する手術適応は? 西原崇創
感染性心内膜炎予防抗菌薬の適応は? 三浦 大
カテーテル関連敗血症
末梢静脈カテーテルには感染リスクはないのか?あるとすれば何日の留置でリスクがあがるのか? 脇坂達郎
カテーテル感染症の診断方法は? 豊田麻理子
カテを抜かないといけない,と一般的には書かれてあるが,エビデンスはあるのか? 千葉 大
CVライン感染の初期治療にはどういうエビデンスがあるのか? 脇坂達郎
CVライン感染:初期治療に抗真菌薬を加える必然性は? 田中竜馬
腸管感染症
ピロリ菌はどの病態に,どの薬で何日治療すべきか? 大路 剛
院内発症の下痢に対して培養検査は必要か? 冲中敬二
外来の下痢でいつ便培養が必要か? 竹下 望
プロバイオティックは意味があるのか? 田口智博
腹腔内感染症
腹腔内感染ではどれくらい腸球菌をカバーすべきか? 藤田崇宏
急性胆管炎に抗菌薬は必要か? 何を使うか? 室林 治
急性胆嚢炎ならどうか(抗菌薬は必要か? 何を使うか?) 川本龍一
腹腔内感染症(膿瘍など)における抗菌薬の至適投与期間は? 藤田崇宏
消化管術後感染症,特に腹腔内感染症における抗菌薬の選択と治療期間は? 林 淑朗
尿路・泌尿器・婦人科系感染症
性器ヘルペスの診断を行うにはどうすればよいのか? 髙山義浩
合併症を伴わない膀胱炎の妥当な治療法は?(抗菌薬,クランベリージュースなど) 嶋田 聡ほか
腎盂腎炎や膀胱炎に適切な抗菌薬は何か?キノロンやSTでなくてはならないのか? 田口智博
再発する尿路感染の予防法は? 倉澤剛太郎
子宮頸癌は予防できるか? ―HPVワクチンは有効か?― 松永真紀
骨髄炎
糖尿病性足病変(骨髄炎を含む)では緑膿菌をカバーすべきか? 大野博司
骨髄炎の経過観察と治療期間 小野 宏
軟部組織感染
顔面の丹毒の治療をどう考えるべきか? 清田雅智
発熱性好中球減少症,発熱性好中球減少症を含む重症感染症
発熱性好中球減少症の場合には,何%程度で嫌気性菌が問題となるのか? 森 雅紀
発熱性好中球減少症において(多剤耐性のグラム陽性球菌カバー目的に),いつvancomycinを使うべきか? 大澤良介
βラクタム単剤で治療するか,アミノグリコシドを併用するか? 横田恭子
好中球減少状態にあるがん患者に対しての,抗菌薬の予防投薬―何が防げて,何が防げないのか?耐性菌は増えないのか?― 大曲貴夫
発熱性好中球減少症の治療にcolony―stimulating factor(CSF)は有効か? 森 雅紀
好中球減少時の感染症で起因菌が判明するとすればそれだけをターゲットにしてよいのか?(緑膿菌をはずしてもよいのか?) 大曲貴夫
4章 微生物別感染症診療にかかわるエビデンス
MRSA感染症
ブドウ球菌感染症にリファンピシンをかませるのはよいのか? methicillin―resistant Staphylococcus aureus(MRSA)だとどうか? 黒上朝子
methicillin―resistant Staphylococcus aureus(MRSA)に効果のある抗菌薬の特徴は? それぞれどのように使い分けるべきか? 林 淑朗
市中MRSA(community―acquired MRSA; CA―MRSA)には治療上どのように対応すればよいのか 松永直久
Candida
Candida敗血症におけるmicafunginの投与量は? 細川直登
Candida血症に対する各抗真菌薬のエビデンスは? 小野 宏
aspergillosis
invasive aspergillosis に対する抗真菌薬治療法―あまたある抗真菌薬の中から,何を選択すべきか― 大曲貴夫
chronic necrotizing pulmonary aspergillosis(CNPA)はいつまで何を指標に治療を行うべきか? 仲松正司
C. difficile(CD)
C. difficile 関連腸炎の診断について(トキシンのみ? 培養も? 臨床診断がすべて?) 本村和久
偽膜性腸炎でメトロニダゾール内服とバンコマイシン内服でどちらに効果があるか? 佐藤泰吾
C. difficile 関連腸炎に対してprobiotics は有効か? 具 芳明
C. difficile 関連腸炎の治療後再発例に対する対処法 北垣 毅
C. difficile 関連腸炎,消化管が使えない時の治療方法があるか? 佐藤暁幸
C. difficile の感染管理:他の菌と違い消毒もしにくいので,具体的には何を行うべきか? 川島篤志
結核菌感染症
BCGの効果は? 鈴木孝明
ツ反の判定方法にエビデンスは? 硬結? 紅斑? 後藤忠雄
ツ反の検査特性は? 石川鎮清
QuantiFERONの有用性はどこにあるか? 岩田健太郎
結核の曝露後の予防内服対象はどのように選ぶべきか? 細川直登
結核の曝露後の予防内服の効果は? 八重樫牧人
ウイルス感染症
サイトメガロウイルス肺炎の診断について 上田晃弘
サイトメガロウイルス感染の予防投与は可能か?誰に対して,どのくらい予防できるか? 椎木創一
サイトメガロウイルスアンチゲネミアはどのくらい,何の意味があるのか? 岩田健太郎
麻疹のワクチン,1回? 2回? 豊田麻理子
水痘帯状疱疹ウイルス曝露後予防について 上田晃弘
HBVワクチン接種後の抗体フォローは行うべきか? 室林 治
HBVワクチン接種後の抗体価検査で抗体が低かったらどうすべきか? 皿谷 健
HCVワークアップの仕方:どの検査を行うのか?検査結果はどう判断するのか? 具 芳明
5章 感染症治療薬にかかわるエビデンス
抗菌薬の臓器移行は臨床アウトカムと関連があるのか? 竹島太郎
抗菌薬で1回の点滴時間を長くすればするほど効果が上がるというのは本当か? 24時間持続投与には効果があるか? 岩田健太郎
高齢者に対する抗菌薬使用量の設定にエビデンスはあるか? 伊藤康太
抗菌薬の併用によって薬剤耐性の発現頻度を低くすることができるか? 田島靖久ほか
耐性菌のできるような抗菌薬の使用パターンは? 竹下 望
抗菌薬の使用期間について,どこまでエビデンスがあるのか? 黒上朝子
抗菌薬を経口に変更するタイミングにエビデンスはあるか? 本村和久
クリプトコッカス髄膜炎(Cryptococcal meningoencephalitis)の治療において血清および髄液中クリプトコッカス抗原(Cryptococcal polysaccharide antigen)のtiterモニタリングは治療効果の指標となりうるか 笹原鉄平
ペニシリンGの投与量や投与法のエビデンスは? 山本舜悟
ペニシリンアレルギーの患者にセファロスポリンは投与できるか? カルバペネムではどうか? 西原崇創
アミノグリコシドの投与量,投与方法にはどこまでエビデンスがあるか? 日本の用法は,その観点から,妥当といえるか? 川島篤志
ST合剤の日本人に対する副作用の頻度は?脱感作などで回避できるものの頻度は? 西﨑祐史ほか
ガチフロキサシンの副作用は効果を上回るか? 南郷栄秀
6章 Special topics編
ワクチンは皮下注射? 筋肉内注射? 宮田雅史
ワクチン同時接種は可能か? 大野博司
妊婦に打ってよいワクチン,打ってはいけないワクチン,打った方がよいワクチンは? その裏づけとなるデータは? 三浦 大
手洗いには,何を使えば良いのか? アルコール製剤の利点・限界? 菅野圭一
採血など針を扱う場合に手袋を着用する必要はあるか 佐藤泰吾
聴診器はどこまできれいにすべきか? 指輪は?あごひげは? ネクタイは? 市川高夫
職業感染対策を理由に,患者に対するHBV,HCV,HIV,梅毒のスクリーニング検査は必要か? 源河いくみ
ムンプス,風疹,麻疹,水痘は再感染するのか?その意義は? 北西史直
食物を扱う人の下痢源性病原体のチェックにエビデンスはあるのか? 武田誠司ほか
アデノウイルス結膜炎に罹患した医療従事者の就業制限? 石川鎮清
手術時の抗菌薬予防投与のエビデンスは? 内視鏡では?その他の手技では? 原田壮平
院内に細菌検査室があることの意義は? 上原由紀
感染症専門医がいることは,病院に経済的メリットをもたらすか? 伊藤康太
感染症専門医がいると予後が改善するか 笠原 敬
抗菌薬採用のポリシーにエビデンスはあるのか?(絞り込みには,効果があるか?) 遠藤和郎
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書籍情報
- ISBN:9784830620119
- ページ数:508頁
- 書籍発行日:2008年3月
- 電子版発売日:2020年11月27日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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